閉鎖系における空気イオンとホルムアルデヒドの相関性に関する研究

住環境における空気イオンに関する基礎研究その1

                            正会員  ○中里美保*      

                             同    剱持晶子**

                             同    石川恒夫***

                                  菅原明子****

1。はじめに

 近年、マイナスイオンの空気清浄作用に関心が寄せられている。室内空気汚染の主要因と指摘されているホルムアルデヒドをはじめとする有害化学物質を、マイナスイオンによって、除去・低減することができれば、良好な室内環境の創出に極めて有効であろう。しかし、マイナスイオンが空気中の固体状の浮遊微粒子を除去することは、ある程度明らかになりつつあるが1)、ガス状の有害化学物質にも有効に作用するのかということに関して、学術的な研究は端緒についたばかりである。そこで本研究はまず、閉鎖系における空気イオンとホルムアルデヒドの相関を測定により明らかにし、空気イオンが住環境の改善に寄与する可能性について考察する。

2。空気イオン概説

 「空気イオン」とは、空気中の原子または分子がプラスまたはマイナスに帯電した状態をいう。空気イオンは大気電場と密接に関連しており、大気中の電気現象の源ともいうことができる。空気イオンは粒子の大きさ及び移動度に従って、小イオン、中イオン、大イオンに分類されるが、大、中イオンは、小イオンが空気中の中性微粒子(エアロゾル粒子)に付着し帯電したものであり、その特性や組成は大きく異なる。小イオンは、大、中イオンに比べ、その移動度が大きく、大気中の微粒子や生体に付着しやすいため、圧倒的に人体や環境への影響が大きい。

それゆえ本研究は、主に小イオンを研究対象とする2)

 空気イオンは、空気の清浄度と密接に関わることが明らかになっている。空気イオン濃度及び空気イオン比は、場所により大きく異なり、空気の汚染に従って、空気イオン濃度は減少し、空気イオン比(n+/-)は増加することが、多くの研究者によって報告されている3)。そのため、望ましい空気イオン環境のためには、空気イオン濃度と空気イオン比の両方を考慮する必要がある。n+/-1の時にはプラスイオンの作用が現れ、n+/-1の時にはマイナスイオンの作用が現れることから、プラスイオンよりもマイナスイオンが多い状態が、生体にとって望まし

い空気イオン環境であると言える。また、空気イオンの欠乏は生体に悪い影響を及ぼすため、空気イオンが非常に少ない、または全くない状態は好ましくない。

 松林、噴水、住宅や交通量の多い道路といった、身近な環境における空気イオン環境を把握するために、ゲルディエンコンデンサ方式の空気イオン測定器を用いて予備測定を行った。ここでは詳細は省くが、既往研究にあるように4)、なるほど空気イオン環境は場所により大きく異なっていた。室内においては、建築の構造、湿度、換気の有無、在室人数などに、屋外においては空気清浄度などの条件に、それぞれ大きく影響を受けている。加えて空気イオン濃度は刻々と変化し、微弱な気流ひとつに影響される、繊細な要素であることも一目瞭然であった。

3。閉鎖系装置における空気イオンとホルムアルデヒド濃度の測定

 マイナスイオンによる空気中のホルムアルデヒドの低減効果、及びマイナスイオン濃度とホルムアルデヒド気中濃度の相関関係を明らかにするために、以下の実験を行った。但し電気放電式により生成されたマイナスイオンは、水破砕式により発生するマイナスイオンと異なり、水のクラスターを持たないものも多く、ガス状物質除去に不利と考えられる1)。しかしその方式は今日、電化製品に多く採用されており、住環境に持ち込まれる機会も多い。そのため本実験では、電気放電式のマイナスイオン発生器を用いた。特にホルムアルデヒドはオゾンなどの強い酸化作用により分解されるため、電気放電式の中でも、これら副生成物の発生がなるべくない振動フリーエレクトロン放射式マイナスイオン発生方式を選択した。

 実験は、デシケータ内に汚染源としてFc2の合板、マイナスイオン発生器及びホルムアルデヒド簡易測定器を図1のように入れ、表1の測定条件でホルムアルデヒド濃度を測定した。測定IIIでは、マイナスイオンによるホルムアルデヒド低減効果を、測定Ⅲ、IVでは、前者の実験を補足するために、測定I、Hの実験で生じるデシケータの開閉が、測定に影響するかを調べた。

3。1マイナスイオンによるホルムアルデヒド低減効果 

図2に測定I、Ⅱの測定結果を示す。測定I、Hともマイナスイオン発生器の電源を切った状態で測定を開始すると、デシケータ内のホルムアルデヒド濃度は、時間とともに上昇した。測定開始後60分に、デシケータの蓋を必要最小限開き、測定Iでは、マイナスイオン発生器の電源を入れ、マイナスイオンを発生させ、測定Hでは蓋の開閉のみとした。すると、測定Iでは、ホルムアルデヒド濃度は急激に低下し、測定開始後175分には測定開始時よりも低い約0.60ppmまで低下したが、測定IIではホルムアルデヒド濃度は上昇し続けた。測定Iでは、マイナスイオンの効果を再度確認するため、測定開始後175分に、デシケータの蓋を再度必要最小限開き、マイナスイオン発生器の電源を切った。結果、ホルムアルデヒド濃度は、蓋を開けたことにより一時的に低下したが、時間経過にしたがって再び上昇し、電源を切って60分後

235分後)には0.71ppm100換算で82.5)まで上がった。その後、60分おきに、マイナスイオン発生器の電源を切り替えたが、電源を入れマイナスイオンを発生させると、ホルムアルデヒド濃度は低下し、電源を切ると上昇するというな明らかな相関関係が確認された。

3.2デシケータの開閉による測定への影響 図3に測定Ⅲ、IVの測定結果を示す。両者ともデシケータの蓋を閉めきった状態とし、測定Ⅲでは、マイナスイオン発生器の電源は測定開始時からON、測定IVではOFFとした。両測定ともデシケータ内のホルムアルデヒド濃度は、測定開始より急激に上昇し始めるが、測定Ⅲでは、測定開始後40分頃から低下し始めた。これは、測定開始後40分頃までは、ホルムアルデヒドおよびにマイナスイオンがデシケータ内に充満し、その後、ホルムアルデヒドの揮発量よりも、マイナスイオンにより減少するホルムアルデヒド量のほうが多くなり、濃度の低下につながったと考えられる。一方測定IVは、測定開始時より上昇を続け、測定開始後240分頃からは、ホルムアルデヒドが飽和状態になり、濃度低下は認められなかった。

4。まとめ

 ホルムアルデヒド簡易測定器を使用する場合、測定数値の信頼性の問題があるが、本研究(1)は、継時変化を見ることを主目的としており、デシケータを用いた閉鎖系の実験・測定をとおして、マイナスイオンによるホルムアルデヒド低減効果が明らかに確認されたことを報告した。さらに、開放系での実験をとおして、イオン環境の視点から室内環境をとらえることを試みたい。

註及び参考文献

1)例えば中邨隆・乾博:真気と真気システムについて/臭気の研究31巻6号/2000.11/p814

2)例えば琉子友男・佐々木久夫編著日本住宅環境医学会監修:空気マイナスイオン応用事典/人間と歴史社/2002を参照 3)木村正一・谷口正弘:医学領域 空気イオンの理論と実際/南山堂書店/1938/p.106108 また現代の空気はプラス:マイナスイオン=1:1.2という比率であるという記述も散見される。例えば菅原明子:マイナスイオンの秘密/PHP研究所/19984)例えば註3)における木村らは、映画館や学校での測定から、人が密集すると、特にマイナスイオンの減少が早く、イオンバランスが悪化することを明らかにしている。同書p61なお本研究は石川研究室と()菅原研究所との共同研究によっている。