乳がんの新しい分子標的薬


乳がんの15%から20%は、がん細胞の表面にHER2といわれる特殊なタンパク質が現れ、がん細胞を増殖させる「HER2陽性」乳がんです。このタイプのがんは、再発・転移の多い治療の難しいがんでした。ところが1998年(日本での発売は2001年)、このHER2と結びつきがんを増殖させる信号の伝達を防ぐ「ハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)」が開発され、治療成績は格段に向上しました。

また2013年9月、再発患者さんを対象とした新しい分子標的薬「パージェタ(同:ペルツズマブ)」が発売されました。HER2はHER3と結合し、「ハーセプチン」だけでは抑えきれないがん増殖信号を出しますが、「パージェタ」はこの信号を抑える機能を持っています。「ハーセプチン」と「パージェタ」を併用することで、さらに高い治療効果が期待されています。

さらに2014年4月、「ハーセプチン」の効果がなくなった再発患者さんを対象に、分子標的薬と抗がん剤を組み合わせた新しいタイプの薬「カドサイラ(同:トラスツズマブエムタンシン)」が発売されました。この薬は「ハーセプチン」に抗がん剤のDM1を組み合わたもので、HER2を目標にがん細胞に到達すると、結合が外れ、抗がん剤が効果を発揮し始めます。従来の抗がん剤のように正常細胞をダメージを与えることが少なく、副作用が少ないことが特徴です。

ただし「ハーセプチン」は体重50kgの女性の場合、1回当たりの費用が約11.5万円、「パージェタ」は約23.8万円なのに対し、「カドサイラ」は約47万円(患者さんの負担はこの1~3割です。)掛かってしまいます。3週間に1回、効果がある限り投与することが必要なため、患者さんや医療財政への負担が課題となっています。


トリプルネガティブ乳がんの抗がん剤治療


「トリプルネガティブ乳がん」とは、多くの乳がんの発症と増殖に関わるとされる3つの受容体と関係しない乳がんの事です。3つの受容体とは、エストロゲンとプロゲストロンと言う2種類の女性ホルモン受容体とHER2(ハーツー)というたんぱく質の受容体です。そしてトリプルネガティブ乳がんの患者さんは乳がん全体の10~15%と言われています。

HER2陽性の乳がんにはハーセプチンに代表される抗HER2療法が高い効果を示します。また、ホルモン受容体をもつ患者さんにはホルモン療法がやはり高い効果を示します。しかしながらトリプルネガティブ乳がんの場合にはこの二つの療法が使えないので、それ以外の抗がん剤治療が行われます。具体的にはアンスラサイクリン系抗がん剤やタキサン系抗がん剤が使われます。さらに2011年に日本発の新薬ハラヴェンが承認されています。さらに先ほどの治療後にTS-1やゼローダを追加する臨床試験も進められています。この他にも多くの治療が考えられています。

トリプルネガティブ乳がんはネガティブなイメージが付きまといやすいですが、再発無く長期に生活している方々も多くいらっしゃいますし、新薬や治療法の開発も盛んです。希望を持って治療に取り組みましょう。


遺伝性の乳がんについて


乳がんはBRCAと言われる遺伝子の変異も発症に関係していると見られています。

昭和大学医学部乳腺外科の中村清吾先生の発表によれば、乳癌患者のうち7~10%は、遺伝子変異が原因の遺伝性乳癌・卵巣癌症候群(HBOC)とされ、その多くはBRCA1遺伝子またはBRCA2遺伝子に変異があることが報告されています。BRCA1遺伝子変異を持つ患者では、生涯乳癌発症リスクが6~8割と非常に高いほか、乳癌再発リスクや卵巣癌を発症するリスクが高いことも知られています。

アメリカやイギリスではBRCA1遺伝子の異常が分かった場合、発症前に、がんになりやすい臓器(乳房、卵巣)を切除するという予防法も行なわれているようです。

しかしながら、日本では予防的な臓器切除は一般的ではありません。

また、例え遺伝子異常を持っていても全員ががんを発症するわけではありませんし、生活習慣の改善によりリスクを減らす可能性もあります。例えば脂肪の摂取を減らせばがんになる確率は下がります。

ですので、予防のためにまず臓器の切除ありきではなく、定期的ながん検診を受け、がんが発見されたら早期に治療する事が大切であるとされています。

 

乳がんのリスクファクター


乳がんセルフチェックで異常が見つかったら


乳がんのセルチェックで異常が見つかると大変に不安になります。しかし 乳房の異常=乳がん ではありませんので、いたずらに不安になる必要はありませんが、そのままにして不安な気持で日々を過ごすよりも、出来るだけ早く、きちんと病院で検査をしてもらいましょう。

検査の結果、良性の病気であれば安心できますし、悪性の場合なら尚更早期発見出来て良かったのです。

早期発見出来たなら時間的余裕が生まれます。我々もセミナーなどで繰り返しお伝えしていることですが、乳がんに限らず、がんの治療は最初の治療が大切です。時間があれば、色々と相談して自分で納得できる治療法を探すことができるのです。時間があればすぐに切らなくても良いかも知れないのです。

では、どの病院に行ったらよいのでしょうか?婦人科を思い浮かべる方もいるでしょうが、正解はそうではありません。

乳房の病気を専門に診てくれるのは「乳腺外科」もしくは「外科」です。最近では「乳腺科」と言う科目のある病院も増えて来ました。

検査ではマンモグラフィ検査も行いますが、マンモグラフィ検査を担当する技師さんに女性スタッフがいるかを問い合わせることもできますので、とにかく異常が感じられたならば、躊躇せずに検査に行きましょう。



乳がんのセルフチェックのやり方


乳がんはほかのがんと違って定期的に注意深く乳房を点検すれば、自分で発見することが可能です。石灰化病変(下記参照ください)やごく小さなしこりは発見できませんが、それでも自分で出来るセルチェックは有効です。

それに乳がんを早く発見すればそれだけ治療後の治り方も良好ですし、転移が無いうちに発見できれば命に関わるようなこともありません。20歳を過ぎたら毎月一回、生理が終わるころ、閉経後は毎月、日付を決めてチェックし、記録を残しましょう。

まずは観察(視診)です。下記項目をチェックしましょう。

①左右の乳房を見比べて違いはないか

②腫れていたり、皮膚の色、硬さの変化はないか

③くぼみやひきつれがないか

④乳首にへこみやただれはないか

⑤下着の裏にしみはないか

やりかたとしては、鏡の前にリラックスして立って①~④を確認、両腕を腰にあてた姿勢で同様にチェック、両手を頭の後ろで組んで、バンザイのような感じでチェック、最後に腰をひねったり、前かがみになって同様にチェックします。

この次に触診をします。

⑥乳房にしこりはないか

⑦脇の下にしこりはないか

⑧片方の乳首のみの分泌物はないか

をチェックします。

チェックのやり方としては、親指以外の4本の指で乳首の周辺から細かく渦巻きを書くようにそっと押すような感じで周囲まで確認します。次に縦、横に平行線を引くように移動しながら4本の指でチェックします。最後に乳首や乳房をつまんで分泌物がないかをチェックします。

そんなに時間がかからないと思いますので毎月、定期的にチェックしてみてください。また、⑤⑥に関しては入浴時に石鹸をつけて滑らせると凹凸が判り易いそうです。


乳がんの危険因子(リスクファクター)


これまでの研究や調査から、乳がんにはかかりやすい人がいることが判っています。どのような人が罹りやすいのでしょうか。

とくに関連がはっきりしている危険因子(リスクファクター)は体内の女性ホルモンのエストロゲンのレベルと関係する項目です。

①初潮が早い(12歳以下)

②閉経が遅い(55歳以上)

③出産経験がない

④高齢出産(35歳以上)

⑤閉経後のホルモン補充療法(下記関連項目参照ください)

以上の項目はエストロゲンが高い状態を長期に経験することになるから危険が高まるのです。

そのほかの要注意要因としては

⑥高身長である

⑦閉経後の肥満(ただし閉経前の肥満はリスク低下要因です)

⑧家族に乳がんや卵巣がんの経験者がいる

⑨良性の乳腺疾患になったことがある

⑩子宮体がん、卵巣がんに罹ったことがある

生活習慣としては

⑪過度の飲酒

などです。

リスクの多い人が必ず乳がんになるわけではありませんし、少ない人がならないわけでもありません。

やはりセルフチェックの実施や定期健診の受診が大切です。


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